「平安人の心で「源氏物語」を読む」(山本淳子)

きっと源氏物語を読みたくなる

「平安人の心で「源氏物語」を読む」
(山本淳子)朝日新聞出版

5年ほど前、源氏物語の現代語訳
(寂聴訳谷崎訳)を初めて読みました。
大きな感動がありましたが、
同時に「よくわからない部分」も
多々ありました(いろいろな資料を
あたってはみたのですが)。
そしてそれらは「冗長すぎる部分」として
私には感じられたのです。

今年、以前から購入していた
源氏物語原文を
一帖ずつゆっくり読もうと決め、
何か参考書として使える資料はないか
物色していたところ、
本書に出会いました。

大切なのは「平安人の心で」
読むことだったのです。
「千年の時が経った今、
 現代人の私たちが
 それ
(源氏物語の感動)をそのまま
 彼らと共有することは、
 残念ながらできません。
 が、少しでも平安社会の
 意識と記憶を知り、
 その空気に身を浸しながら読めば、
 物語をもっとリアルに
 感じることができ」

(「はじめに」より)というのです。
まさにその通りだと思います。

例えば、第一帖「桐壺」では、
後宮における天皇の在り方が
解説されています。
それによると
摂関政治が定着した時代において、
夜の営みは天皇にとっては
「公務」とでも言うべきものに
なっていたのです(次代の天皇が
貴族たちの合意を得て円滑に
政治を執り行うことのできるよう、
力のある家の女性を
身ごもらせる必要があった)。
桐壺帝が藤壺更衣(美しい女性で
あるものの身分が低い)を
寵愛した筋書きは、
現代の尺度で考えると
当然のように捉えられがちですが、
平安当時の読み手からすれば
衝撃的な内容だったということが
よく理解できます。
源氏物語は冒頭からすでに
驚天動地の筋書きだったのです。

また例えば、第三十一帖「真木柱」では、
「召人」(主人と性関係のある女房)に
ついての解説があります。
平安時代の貴族社会が
一夫多妻制であることは
広く知られていますが、
妾にも数えられない(人として
認められていない)存在の女性があり、
それが貴族男性の
性を慰めていたのです。
そのことを知らなければ、
この帖に現れる召人「木工(もく)の君」
「中将のおもと」の役割や意味を
理解することはできません。
私が初読で「冗長」と感じていたのは
そうした部分なのです。

文学作品はその成立背景を知らなければ
正しい理解につながらないのです。
源氏物語であればなおさらです。
しかし古典の研究者でもない一般人が、
千年も前の時代背景を
独学で知るのは困難を極めます。
本書は源氏物語の解説書の中でも、
読み手に立ち、
読み手の理解をしっかりと支援する
貴重な存在です。
これから源氏物語を
読もうと思っているあなたに
強くお薦めする一冊です。
本書を読めばきっと源氏物語を
読みたくなるはずです。
ぜひご一読を。

(2020.12.16)

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